ラファエルは、エイミに助けられるまで他人に助けられたことがなかったようです。おそらく両親には愛情を注いでもらえずに育ったのでしょう。
愛情を注がれずに育った子供が何かしら歪んでしまうのは無理のないことです。愛情の代わりに優越感を求めるようになるのはよくあることで、ありのままの自分を愛せず、自分の妄想する『素晴らしい自分像』にすがりつくようになることがあります。実力のない者の場合は、他人の足を引っ張って引き摺り下ろそうとしたり、自分より下の者を見つけて攻撃したり、素晴らしい集団に属しているから自分も素晴らしいと思ったりなど、根拠のない『素晴らしい自分像』を思い描きますが、幸い彼には、ソレル家の基盤を堅固なものにできるだけの的確で素早い判断力と実行力があり、『素晴らしい自分像』の根拠を持てるだけの実力があったようです。 肥大した自己愛や過剰な優越感や支配欲は、「愛されたい・認められたい」という気持ちから来るものです。 エイミがラファエルにとって特別な存在となったのは、彼がずっと心の奥底で無意識ながら強烈に欲していたものを、初めて与えてくれた人だったからかもしれません。 余談ですが、この時代のフランスは貴族社会・家父長制度で、家長が家の財産や婚姻など全てのことに対しての権限があり、また貴族と庶民の間の線引きが明確でした。対してイングランドはコモン・ローに基づいた市民社会・個人主義であり、財産は個人の物、婚姻も個人の意思で行うものでした。親といえども子の財産を勝手に扱うことは許されず、貴族と庶民の結婚も認められました。 アイヴィーが、家が没落したことよりも両親の死を悲しんでいるのに対し、ラファエルが、本来ソレル家の全権を持っているはずの家長である自分を裏切った一族を恨んでいるのは、当時のイングランドとフランスの制度による違いもあるのでしょう。 もっとも、アイヴィーが両親に愛されていたのに対し、ラファエルが愛されていなかったのが最大の原因のようではありますが。 一方、エイミは孤児でした。どういった事情で孤児になったのかはわかりませんが、エイミもまた、自分を守って愛情を与えてくれる存在がいなかったようです。幼くして自分の身は自分で守らなければならない立場になってしまい、その結果強い警戒心が育ってしまったのでしょう。 2のラファエルのストーリーでは、エイミのラファエルに対する感情はよくわかりませんでしたが、3のエイミのストーリーを読む限り、ラファエルに対しては心を開いているようです。エイミにとってのラファエルもまた、心の奥底で求めていたものを与えてくれた存在だったのかもしれません。 しかし、エイミもまたラファエルと同じく愛情を受けずに育った子供です。愛情を受けずに育った子供は、見捨てられることを極度に恐れるようになることがあります。ラファエルのように『自分は素晴らしい』と思うことで、見捨てられた自分を直視することを避け、愛されない自分を慰める場合もありますが、相手に逆らわず、相手の言うことを何でもきいたり、人形のように何でも相手にしてもらう存在になることで、相手から見捨てられないようにしようとする場合もあります。 エイミが素直にラファエルに従っているのは、もしかしたらラファエルに見捨てられないためなのかもしれません。 愛情を受けずに育った子供は、親になった時、子供に愛情を注げない場合があります。虐待を受けて育った子供が、自分が親になったときに子供を虐待する、虐待連鎖となってしまうケースは多いようです。 ラファエルがそうならなかったのは、没落したことにより彼の価値観が変わったためと、他人(エイミ)に助けられるという体験をしたからでしょう。もし没落することなくソレル家の当主として人生を過ごし、結婚して子供を持つことになっていたら、おそらく子供に対して自分の親と同じような育て方をしていたのではないでしょうか。 ラファエルにとってエイミは、幼い頃愛情を注いでもらえなかった自分自身なのかもしれません。自分が幼い頃両親に受けたかった愛情をエイミに注ぐことで、自分の中の傷ついた心を癒しているのでしょう。 しかし、ラファエルは、『素晴らしい自分像』を維持するため、自分が『負けた』『失敗した』ということが受け入れられない性格であり、また、見捨てられることに対する不安から、本来自分の側であるべき人間が自分の側に付いてくれない、ということに怒りを燃やす傾向があるようです。 自分に屈辱を与えた一族や貴族社会に対する激しい怒りといい、南フランスで自分達を追い出そうとした領民たちに対して「身分をわきまえぬ愚行に怒りを燃やした」ことといい、自分より下だと思っている者に反抗されることや、本来自分の側であるべき人間に裏切られることが心底嫌いなようです。ソウルエッジによって貴族を一掃しようとしているのも、彼の意識上では「エイミのため」となっていますが、本当は自分の中にある貴族に対する復讐心からというのもありそうです。 もしかしたら、エイミに対して愛情を注げるのは、エイミが自分に反抗せず、素直に従うからこそなのかもしれません。エイミのほうでも、ラファエルのそういった性格を無意識に感じ取っているからこそ、大人しくしているのかもしれません。 今はラファエルに従順なエイミが、自分の意思を持ち、彼に反抗するようになったとき、はたしてラファエルはエイミに対してどういう態度を取るのでしょうか… いずれエイミは、ラファエルと対峙しなければならないときが来るかもしれません。 ラファエルもまた、いずれは自分の思い通りにはならない存在となったエイミに向き合わなければならないでしょう。 その時が怖いようでもあり、また楽しみなようでもあります。 |